鬆・柔、虚・空、円・満

鬆・柔、虚・空、円・満

この六文字は太極拳練習の習得目標で心身の状態作りを表したものである。

稽古を積むと、心身の状態は、鬆(リラックス)、柔(やわらか)を経て、虚・空(外からの刺激に対して内部から自然に反応する)、円・満(気がおのずと充満する)と発達する。

鬆(ソン)は放鬆(ファンソン)でリラックスすること、弛めることである。

柔(ロウ)は文字通り柔らかい動きや状態のことで、同系統の文字に軟(ルァン)・軽(チン)や静(ジン)などもある。

これら鬆柔あるいは軟・軽・静を意識し、站椿・套路・推手など全ての練習時に常に心がけ心身の状態を整えていく。

鬆•柔などの感覚とからだ作りが深まっていくにしたがって、からだの内側が虚 (シーや空(コン)の状態になってくるといわれている。

無為にして自然、作為もなく軽やかに外部からの攻撃や刺激(いわば実)に対してからだの内部からの自然の反応が始まってくる。

緩んだからだは皮膚をはじめ身体そのものが敏感なセンサーのようになって瞬時に判断し、自然な対応反応が出てくるのである。

太極拳に関連した古典は易経や医書などで、武術と医術の区別は本来ない。内丹(瞑想)の理想は嬰児の生命力の状態に帰るところにあるが、武術の理想も同じである。つまり中国武術における霊性とは、人間が本来そなえている生きる力である。

宮本知次著「中国武術の身体・気・霊性 – 伝統呉式太極拳・馬長勲の世界」より抜粋